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カナダ社会考

サンダース宮松敬子が見つめるカナダ、日本などを中心とする国際社会の今。
トロントの日本語雑誌「bits」に連載中(毎月第一、第三金曜日発行)。
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書評「松井久子の生きる力」 ソリストの思考術 六耀社 
表紙 

残念ながら、カナダに住む者の間では「松井久子」という名はそれほど浸透していない。
だが、数年前にトロント日系文化会館で上映された『折り梅』の監督といえば、ピンと来る人も多いだろう。


その作品を観て、加齢と共に記憶が薄れていく痴呆の姑を抱えた女性が、家庭崩壊寸前の危機を乗り越え、あるがままを受け入れて明日を生きようとする物語に感動した人は多かった。
嫁、妻、母親、加えて女としての心の襞に潜む葛藤をきめ細かに描いた作品であった。


松井氏はこの映画の前に、やはり痴呆症をテーマにした『ユキエ』(‘
98)を一本、また最近3本目の作品として、来月7日開幕のJCCC日本映画祭に出展する『レオニー』を完成させた。


当書はその監督の自叙伝である。

松井久子


履歴を見ると、『ユキエ』のメガホンを取ったのは
50歳のとき。何が
松井氏を映画制作に追い立てたかの動機は非常に興味深い。

若いころからフリーランスのライター・編集者としてキャリアを積み、またプロデューサーとしてドラマやドキュメンタリー等のテレビ番組を何本も企画制作してきた。
作品作りには常にテーマとして「普遍性」と「時代性」を目線に据えていた。


そして
19年前のある日、『ユキエ』の原作である吉目木晴彦(芥川賞作家)の「寂寥郊野」に出合い、「老い」や「痴呆」に加え、戦争花嫁としてアメリカに渡った日本女性を通して、年を重ねて行く「夫婦愛」というものを描きたいと熱望した。
今後日本が迎える高齢化時代に適切な題材と思えたからだ。


企画を持ってテレビ局回りをしたものの、当時バラエティーやお笑い番組などに方向転換していた放送界は、どこもそんな暗いテーマに振り向きさえしなかった。


ならば「自分で映画を作ろう!」と思い立ったのである。テレビとは全く異なる映画の世界での経験は皆無にもかかわらず、である。


知る人ぞ知る日本の映画界は、極めて古い男社会の体質を持ち、映画人たちは皆自分たちを「プロ」と位置づけ、外から入ってきた異物を「素人」と一蹴する世界。


支えてくれる仲間もお金も無い女一人が、未知の世界に切り込み、ましてアメリカでの撮影も決行しようというのだ。


「何を無謀な、出来るわけがない」の嘲笑を背に、背水の陣で望んだ松井氏。今でこそ語り草となっているが、その困難さは想像を絶するものだった。


だがその時背中を押してくれたのは、シナリオを快諾してくれた新藤兼人監督(映画祭に「一枚のハガキ」出品)だった。


出来れば撮影もと願ったが、新藤氏は「今の日本映画を支えているのは女性客。だが撮っているのは男ばかり。もっと多くの女性たちが監督を目指すべき」という言葉だった。これを支えに
15年で3本の作品を作りあげた。

『レオニー』は、世界的に名を馳せた彫刻家イサム・ノグチの母親に焦点を充てた作品。鑑賞後、身体の芯に火の玉のような熱い思いが残る作品には7年の歳月を要した。

シングルマザーとしての体験も含め「人生には無駄なことなど何一つない」と言い切るいさぎよさに、胸のすく思いを感じる読者は多いはずだ。



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